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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11875号 判決 1973年1月31日

原告

富沢俊雄

外四名

右原告ら五名訴訟代理人

大滝亀代司

外一名

被告

株式会社川口屋林銃砲火薬店

右代表者

林英男

右訴訟代理人

高屋市二郎

外一名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  申立て

(一)  原告

「被告らは原告に対し一三、三九五、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年一一月二八日から完済まで年六分の割合による金員を各自支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言<以下省略>

理由

一原告らの営業

木村清治が宅地建物取引仲立営業を営むことは争いがなく、原告らもこの事業を営むことは、証人橋本亀三郎の証言、原告富沢俊雄、伊藤嘉吉、松木為之助各本人、原告横山代表者横山重敏各尋問の結果により明らかである。

二被告から木村への調査依頼

<証拠>をあわせれば、被告代表者林隆男とその命を受けた総務課長福田勇太郎とは昭和四二年三月ころ木村清治に対し、公団が被告所有の本件土地を買受ける意向を有するか否かを調査することを依頼し、その実測図を交付したこと、被告代表者林は同年四月越野饒をして公団に右意向の有無を尋ねさせたことが認められる。

三木村から原告らへの仲立順次依頼

<証拠>をあわせれば、木村は直ちに公団、東急不動産株式会社等に本件土地の買受の仲立をする旨申入れたほか、原告富沢に公団以外の適当な買手を坪当り単価八万円の買値で探すことを依頼し、原告富沢は当時原告伊藤に買手を探すことを依頼し、原告伊藤は当時原告松木に同様依頼し、原告松木は当時原告住建に坪当り単価八万円で買手を探すよう依頼し、原告住建は当時原告横山に公団あてに本件土地を売込むことの仲立を依頼したこと、しかし原告らは被告から直接右のような依頼を受けてはいなかつたことがいずれも認められる。

四原告らの仲立行為と本件売買契約の成立

(一)  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

原告住建の営業部長橋本亀三郎と原告横山代表者横山重敏とは同年四月二七日公団支所で土地買受事務を担当している土地第二課中島某に対し、本件土地を坪当り単価七万五〇〇〇円で売却の仲立をする旨申入れ、同年五月四日中島から、本件土地中もと国有であつたものにつき払下関係書類の提出を要望されたが、これを果さなかつた。

公団はこれらの動きに応えて現地調査をすべく同月九日支所計画部普通分譲住宅課勤務小林義三に命じて本件土地に臨場せしめ、前記越野からの連絡を受けて本件土地に臨んだ被告代表者林および福田課長より説明を受けさせた。被告代表者林は同日支所土地第二課長細井文明の質問に対し、「被告は原告横山にその名義で公団あて本件土地の売却申込みをすることを依頼していない。」旨を答え、さらに同月一一日付で公団との売買には不動産取引業者を介在させない旨の書面(乙第三号証)を支所あて提出した。

原告住建の橋本営業部長と原告横山代表者横山とは同月一一日、一二日支所の担当者から被告との関係を明確にするよう要求され、被告の福田課長に会つたが、売買に関与することを拒まれ、その後公団との交渉をしていない。

被告代表者林と福田課長とは、その後支所の担当者と本件土地売買交渉を行ない、同年六月末ころ支所から坪当り単価六二、八〇〇円の売買価格を示され、これを不満として交渉を打切り、株式会社三菱信託銀行不動産担当者関口守治とともに本件土地を宅地として造成して分譲することにつき検討した。

被告は同年八月ころ支所担当者から交渉再開の申入れを受け、交渉をとげ、まとまりかけたころ、支所土地第一課長泉松三郎の要求により木村らとの紛争予防のため同年一〇月二八日木村から右売買には一切関係しない旨の念書(乙第八号証)を徴しこれを公団に提示した。

(二)  被告が同年一一月一六日本件土地等を現物出資して国富を設立し、国富は同月二五日公団に本件土地を四億四四五〇万円で売却し、同月二七日被告から中間省略して公団あて所有権移転登記を経たことは争いがない。

(三)  宅地建物取引仲立業者間の慣行として、売主又は買主から仲立の依頼を受けた右業者は単独で売買の相手方を探すこともあり、又さらに同業者にこれを依頼することもあることは、<証拠>により明らかである。そして後者の場合売主又は買主から直接依頼を受けた業者が仲立をとげその結果売買契約の成立をみることより合意又はこれなきときでも商法五一二条により報酬債権を取得することは勿論である。しかし売主又は買主から直接依頼を受けた同業者から、さらに依頼を受けたにすぎず、売主又は買主から直接の依頼を受けていない業者が、右売主又は買主に対して、仲立契約関係に立つ旨の事実たる慣習が存在することは、これを認めるに足りる証拠がない。

五報酬債権の成否

(一)  原告らは木村清治から前記のような経緯で本件土地の買主を探すよう仲立の依頼を受け、前記のような行為をしたのであるが、被告から直接に依頼を受けていない。そして原告ら主張のような事実たる慣習が認められない以上、この慣習にもとづく原告ら主張のような仲立契約関係が成立するいわれはなく、従つてこれを前提とする報酬債権が発生するものとはいえない。

(二)  一般的にいえば、宅地建物取引仲立業者が売買当事者から直接の依頼を受けないで、その仲立をなし、売買契約を成立させ、仲立と売買契約との間に相当因果関係が存在し、業者が売買当事者の事務管理をしたと認めるに足りるときは、商法五一二条が適用され得べきことは勿論である(最高裁判所昭和四四年六月二六日判決民集二三巻七号一二六四頁)。

しかし、本件のように、被告は右業者たる木村のみにこれを依頼したにすぎず、原告らに直接依頼したものではなく、結局原告らは木村又は自己の前者たる原告から直接依頼を受けただけであるし、またその態様をみても原告らの前記行為は直接依頼した同業者たる前者のために行なつた事務処理にすぎず、被告のために行なつたとも断言できない。

しかも前記事実関係のもとでは、原告らのほかにも仲立行為をした者があり、かつ原告らの仲立による売買交渉は打切られているから、前記相当因果関係ありとは到底いえない。

従つて事務管理を前提として商法五一二条を本件に適用することはできない。

六結論

以上の理由により原告らの請求はいずれも理由がなく棄却すべく、民事訴訟法八九条九三条を適用して主文のとおり判決する。 (沖野威)

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